就業規則・2
平成29年度に全国380ヵ所の総合労働相談コーナーに寄せられた相談件数は、1,104,759件です。このうち総合労働相談件数は、1,104,758件。民事上の個別労働紛争相談件数は、253,005件となります。厚生労働省が公開している「平成29年度個別労働紛争解決制度施行状況」の表で見るとこの10年間は、総合労働相談件数と民事上の個別労働紛争相談件数はいずれも横ばい状態です。
相談件数の推移(平成29年)
厚生労働省:平成29年度個別労働紛争解決制度施行状況
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000213218.pdf
次に、「平成24年度個別労働紛争解決制度施行状況」を見てみましょう。平成14年では、総合労働相談件数は625,572件、民事上の個別労働紛争相談件数は103,194件でした。それが平成20年までに、急激に労使トラブルが増えているのです。
相談件数の推移(平成24年)
厚生労働省:平成24年度個別労働紛争解決制度施行状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000339uj-att/2r985200000339w0.pdf
原因として考えられるのは、長期的な不況から企業の体力が弱まり、労働条件が悪化したことです。しかし、平成21年以降、不況から脱した後も労使トラブルが減ることはありません。
ひとつには、終身雇用が消滅したことにより、労働者は経営者の顔色を伺い、我慢するのをやめ、自分の意見を通すようになったことが考えられます。行政の指導が厳しくなったこともあるでしょう。
主な相談内容別の件数推移
厚生労働省によると、相談内容は「いじめ・嫌がらせ」が6年連続トップです。平成29年度には、72,067件にまで増加しています。逆に、9年前はトップだった「解雇」が、平成29年度には33,269件にまで減少しました。
主な相談内容別の件数推移(10年間)
厚生労働省:平成29年度個別労働紛争解決制度施行状況
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000213218.pdf
いじめ・嫌がらせに対する就業規則の役割
職場のいじめ・嫌がらせは、雇用管理上の問題です。企業の社会的評価を低下させ、労働者の仕事を妨げます。また、被害者には深い傷を負わせることにもなるでしょう。
職場のいじめ・嫌がらせにおいては、就業規則による防止がとても重要となります。
いじめ・嫌がらせの加害者には、懲戒処分が必要となることもあるでしょう。しかしそれには、就業規則や労働協約などの根拠が必要となります。適正な手続きを踏み、慎重かつ構成に処分なければなりません。また、暴力の行使や脅迫を伴ういじめ・嫌がらせについては、刑法上の責任が追及されるべきです。
従業員にいじめ・嫌がらせに対する事業所としての考え方を周知する方法として、就業規則の服務規程の中にいじめ・嫌がらせの禁止事項を盛り込むことです。いじめ・嫌がらせとはどんなことなのかを具体的に示して、就業規則の禁止事項にします。そして、禁止事項を行ってしまった従業員に対しては、厳しく処罰する規定にしなければなりません。
いじめ・嫌がらせを放置すれば、企業の責任が問われます。訴えがあった場合には、企業は適切に対応しなければなりません。
就業規則の作成
就業規則は、何もかも記載してしまうと、膨大な情報量となりわかりづらくなる可能性があります。そうならないためには、「賃金規程」や「退職金規程」など、別規程を設けることが認められています。
別規程は現在、制限はありません。職種ごと、雇用形態ごとに就業規則を作成し、就業規則記載事項の項目ごとに別規程化することが可能になりました。
就業規則の範囲
労働基準法第89条では、就業規則の記載事項を定めています。労働者の規律、労働条件、就業規則記載事項に関する規程は、就業規則という名称が付されていなくとも、労働基準法第89条に規定する就業規則の範囲に含まれています。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
- 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
3の2.退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項- 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
- 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
- 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
- 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
別規程の周知・届け出
労働基準法第106条では、別規程の周知を定めています。就業規則と同様の法定手続きが必要となります。
(法令等の周知義務)
第106条
- 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第18条第2項、第24条第1項ただし書、第32条の2第1項、第32条の3、第32条の4第1項、第32条の5第1項、第34条第2項ただし書、第36条第1項、第38条の2第2項、第38条の3第1項並びに第39条第5項及び第6項ただし書に規定する協定並びに第38条の4第1項及び第5項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。
- 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によって、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。
次回も、就業規則について解説します。
この記事は、2019年1月に執筆されました。記事中の情報は、現時点のものです。