日本の労働時間の今昔

労働時間の時間短縮政策

「エコノミックアニマル」は、経済的利潤の追求を第一として活動する日本人を皮肉った言葉で、1965年にパキスタンのブット外相が日本人を批判するのに用いたのがはじまりです。国際社会において日本人の利己的な振る舞いを厳しく批判したのです。
さらに1980年代になると、日本のバブル経済が到来しました。対外貿易黒字が大きくなり、世界各国との貿易摩擦が発生。そして、欧米諸国から日本人の働き過ぎが批判されるようになったのです。また、日本国内でも、過労死や父親不在の家庭などが問題視されるようになりました。

こうした理由もあって、日本政府は1987年には労働基準法を改正し、法定労働時間は原則週40時間に短縮しました。さらに、「1人当たりの年間労働時間を1800時間とする目標」を定めました。
この「年間労働時間1800時間」という目標を達成するために、1992年に「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」が5年間の時限立法として施行されました。これを、「時短促進法」といいます。

時短促進法から労働時間等設定改善法へ

時短促進法は、完全週休二日制の普及促進と、所定外労働(残業・休日労働)の削減を強く企業に指導するものでした。施行後に2度の改正があり、5年間の期限も延長されました。
こうして1992年度には1958時間だったパートタイム労働者を含む年間総実労働時間は、2004年度には1834時間、2009年度には1777時間にまで短縮されました(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)。

しかし、これは労働環境が劇的に改善されたというよりも、パートなどの非正社員が増えたことなどの雇用形態の多様化により「結果的」に達成されたものでした。
ちなみに、1994年度のパートタイム労働者の比率は11.5%、2004年度のパートタイム労働者比率は21.5%、2009年度には23.3%でした。

後にも触れますが、一方で、フルタイムの労働者の労働時間に変化はありませんでした。
結局、時短促進法が期限を迎えた2006年に、政府は年間労働時間を一律1800時間とする目標を廃止しました。
そして労働環境の改善を促す「労働時間等設定改善法」を施行したのです。これは労働時間や休日を、労働者ごとの働き方や健康などに対応できるように改善することを目的としたものです。

日本人の年間平均労働時間の推移

1970年の日本人の年間平均労働時間は、2200時間以上でした。
1975年代からは1980年代にかけては2100時間前後で、アメリカの1800時間を大きく超えていました。

この流れに大きな変化があったのが、1988年から1993年にかけてです。
1987年の労働基準法の改正や、政府による時短促進法や労働時間等設定改善法により一定の効果がありました。高度成長期以降、一貫して増え続けてきた総労働時間はようやく頭打ちになったのです。
こうした労働時間の変化は、法律の改正ばかりでなく、人口構成の変化も要因のひとつと考えられます。

フルタイム労働者の平均労働時間

今度は、日本の「フルタイム」で働く労働者の、週当たりの平均労働時間をみましょう。
次の表をみてください。

日本の週当たりの平均労働時間の推移

1976年 1981年 1986年 1991年 1996年 2001年 2006年 2011年
週当たりの平均労働時間 46.71時間 49.69時間 49.99時間 49.08時間 48.78時間 48.24時間 50.05時間 50.1時間

この表をみると、日本での1976年の週当たりの平均労働時間は、46.71時間でした。
1986年には49.69時間、1991年は48.08時間で、2011年には50.10時間でした。
週休2日制の普及によって、日本の労働者の労働日数については、週6日労働から週5日労働へと大きく変化しました。ですが、労働時間が短くなったわけではなく、労働日数の短縮もあってか、しわ寄せが起きているのかもしれません。

パートなどの非正社員を含む雇用者の平均も含めて見ると、年・週当たりの労働時間は確実に短縮しています。しかし、フルタイムの労働者だけを見ると、このように1980年代から2000年代の平均労働時間に変化はありません。
このように、フルタイムの労働者の労働時間は、時短促進法や労働時間等設定改善法の影響を受けていないのがわかります。

サービス残業という慣習

労働時間の推移とは別に、日本には、「サービス残業」という慣習があります。
一説には、「終身雇用があるために、日本にはサービス残業がある」ともいわれています。また、厚生労働省が把握していない年間の時間外労働は何百時間もあるといわれています。

しかし、サービス残業は違法です。サービス残業は、労働基準法第37条第1項で定められた時間外労働分の割増賃金を支払うという要件を満たしていません。それにもかかわらず、労働者がサービス残業をする理由には次のようなものが挙げられます。

  • 会社側が残業の「申請」を行わせず、強制的に労働者に残業させているケース
  • 時間外労働を申請していると、労働生産性が低い労働者であると評価を受けるため、残業を申請しないというケース
  • 家庭がうまくいっていないなどの理由で、労働者が自主的に会社に残っているケース

労働時間については、2017年1月には厚生労働省からサービス残業を規制する趣旨の通達である「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が出され、始業・終業時刻の記録・確認などの是正指導が強化されています。
サービス残業をはじめとする労働環境の問題は、うつ病や過労死という社会問題も引き起こしていますが、特に労働時間、残業時間については、行政の監視や規制がより一層厳しくなっていくことでしょう。